2002年の保護研究部の活動

          

      
2002年に,神奈川支部が関わった保護研究活動について,その経緯を紹介する.

●野生動物救護講演会後援
野生動物救護シンポジウム「市民協働による野生動物救護の実際」
 日:2002年9月9日
主催:特定非営利活動法人「野生動物救護獣医師協会」
会場:フォーラムよこはま 会議室
アメリカのPAWSワイルドライフセンター獣医師Jhon R.Huckabee 氏を招いての講演.内容は,「はばたき」2003年1月号(No.368)に掲載した.

●委託調査関係
神奈川県から,鳥獣保護区の設定に関わる調査の依頼を受けて,(財)日本野鳥の会自然保護室に委託調査の事務をお願いした.神奈川支部では,調査員を選定し調査のまとめを行った.調査場所は,「丹沢大山鳥獣保護区」「円海山鳥獣保護区」など29ヶ所であった.

●コアジサシ関係
酒匂川では,小田原市が「コアジサシ郷作り」を実施し,神奈川支部では西湘グループが協力  した.
・相模川では,詳細は本誌p.83-98に北條文彦氏によって詳しく状況が報告されている.
・横浜市は,南本牧において埠頭埋め立て工事において新たに繁殖地が見つかった.7月3日に横浜市港湾局の担当者と現地で,約200羽のコアジサシが繁殖しているのを確認した.2003年度も引き続き繁殖地として利用出来るように,要望した.
・川崎市においては,浮島,東扇島の両地点とも,工事の進行や草が生えるなどしてコアジサシの繁殖適地が無くなり,繁殖は行われなかった模様である.

●サギのコロニー関係
南足柄市/開成町吉田島のコロニーが不明の原因によって放棄された.その後南足柄市岩原の八幡神社にコロニーが形成された.住宅がコロニーに非常に近く生活被害が甚大であった.2003年のコロニー形成に向けて,行政当局と話合いを行う予定である.
・横須賀市浦賀/横須賀市浦賀の叶神社の天然記念物の森林にサギコロニーが形成されている.  数年前から形成されているらしいが詳細は不明である.沖合に養殖生簀があり,採食に利用する個体の移動経路にあたるヨットハーバーにフンを落とすなどの害がある.地元では,急な崖  地にある,天然記念物の森林が枯れる恐れなどの懸念があるとしている.神奈川県横須賀・三  浦行政センター環境部が情報収集に神奈川支部を訪れた.

●相模原市のカラスについて
相模原市のカラス対策について,2003年度から調査の実施を含めて相談があった.しかし予算化が行われず,2004年度以降の検討課題になった.

●特定鳥獣保護管理計画
特定鳥獣保護管理計画に基づくシカ保護管理計画・サル保護管理計画に意見を提出した.

資料1 神奈川県緑政課に提出した意見
────────────────────────────────────────────
神奈川県環境農政部緑政課野生生物班様      2002.10.20
          日本野鳥の会神奈川支部  支部長 鈴木茂也  
ニホンジカ・ニホンザル保護管理計画に関する意見
1.ニホンジカ保護管理計画に関して
①保護管理計画については,個体数管理と生息地管理は車の両輪です.どちらかを切り離す訳には,行きません.しかし神奈川県ニホンジカ管理計画においては,個体数の数値目標を上げています.生息地に関しては,抽象的な管理方針のみで,数値目標を上げていません.県有林の施行計画の数値目標,下層植生の回復目標の数値を上げる事を求めます.
 ②56のユニットの管理方針を上げています.しかし管理ユニットの具体的な管理方法がありません.年度計画を上げて管理ユニットごとの,具体的な調査体制を上げてください.
③被害対策協議会に,NGOや専門家を入れるようにしてください.
 ④高標高のシカ個体群に関する個体数管理は,中標高や低標高へシカを誘導を実施する対策を始める事を行い,そのモニタリングが行われるまで個体数管理は行わないように求めます.
2.ニホンザル管理計画に関して
①現在被害が無い群れに対して対策が取られていません.10年先の人馴れを考えると,被害が無い群れに対して追い払いなどの,被害防除を行う事を求めます.
②被害対策協議会に,NGOや専門家を入れるようにしてください. 以上

●鳥獣保護区関係
 鳥獣保護区の更新に関して意見の提出を求められたので,賛成の意見書を提出した.文例として,宮ヶ瀬保護区のものをあげておく.

資料2 鳥獣保護区存続期間の更新への意見
────────────────────────────────────────────
神奈川県知事 岡崎 洋 殿       20002年7月27日
     日本野鳥の会神奈川支部  支部長 鈴木茂也
宮ヶ瀬鳥獣保護区設置予定域の拡大に係わる意見
 平成14年7月2日付け緑政第113号で依頼のあった標記のことについての賛否および意見は次の通りです.
 1.賛否 賛成     
 2.意見および理由の要旨
 宮ヶ瀬湖は,内水面の保護区として神奈川県最大の保護区です.オシドリを始めとした水鳥が生息する上に貴重な保護区です.今回の拡大によりあいかわ公園鳥獣保護区と連続した保護区になり,広い面積の保護区になり効果が大きいと思われます.今後は,丹沢鳥獣保護区と連続させる事により,コリドー(回廊)の保護区として利用する事が重要と考えます.
 宮ヶ瀬湖は現在の遊覧船の運行や花火大会は鳥獣保護区の機能と相反する行為です.なんらかの調整を神奈川県として行う必要性を感じます.保護区の拡大には賛成いたします.  以上

●サシバの調査
神奈川県内のサシバの繁殖の状況について,まとまった報告がない状態なので,神奈川支部では有志で,調査チームを作った.調査のコーディネイトは森要が担当した.今後,調査結果をBINOS誌上で発表する予定である.

●カワウ問題
 神奈川県のカワウ対策会議では,緑政課・水産課・内水面試験場・(財)日本野鳥の会自然保護室・(財)神奈川県内水面漁業振興会・日本野鳥の会神奈川支部で会議を重ねて来た.年度の後半の日程を上げると以下のようになる.
  9月18日 4月駆除の効果測定結果・今後の対策について
  10月7日 アユ産卵期の対策について
  10月21日 アユ産卵期の対策について
 2月6日 アユ遡上期の対策について
  2月21日 アユ遡上期の対策について
  3月24日 アユ遡上期の対策について
2002年度は,始めて有害駆除を実施したが,(財)日本野鳥の会自然保護室により効果測定調査が行われた.また,秋期のアユ産卵期の対策については,県の会議において,産卵場所を「案山子による防除」を行い(財)日本野鳥の会自然保護室により効果測定調査が行われた.神奈川支部では,上記2回の調査において調査員を募集する事で協力を行った.上記2回の調査結果は,水産庁の報告書で発表される予定である.概要は,有害駆除については追い出し効果(個体数減少)が無かった.案山子は調査範囲において,2週間程度の防除効果認められる.以上の結果になっている.神奈川支部では,科学的な調査により効果的な防除方法を提案して行く事で,カワウ問題の解決に向けた方向性を模索したいと考えている.2003年度以降は,水産課に協議会が設置される予定である.

●茅ヶ崎里山公園の保全に関する要望
立茅ヶ崎里山公園について,スポーツ施設造成の動きがあり以下の要望を県にあて提出した.現在の所,県としては未開園部分には手を付けない方針のようである.

資料3 里山公園に関する要望書
────────────────────────────────────────────
   神奈川県知事殿                             
平成14年11月
             日本野鳥の会神奈川支部 支部長 鈴木茂也
県立茅ヶ崎里山公園における柳谷の自然環境保全について(要望)
 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.日頃環境行政へ積極的に取り組みいただき,感謝いたしております.
 県立茅ヶ崎里山公園では,湘南地区としては希少となった里山の自然生態系が残されており,特に未開園部分の柳谷は,生態系の頂点となるオオタカ,サシバ,ノスリ,フクロウなどの猛禽類が生息しています.平成14年7月の県議会一般質問で,知事が自然を残そうと配慮されている部分に対して,議員からはスポーツ施設を作りたいとの主旨の質問がありました.このような主旨に対しまして,以下にさらなる当地の里山自然環境の保全を要望いたします.

【要望】
1.県立茅ヶ崎里山公園内の,柳谷地区では,猛禽類の保護から,全体の自然環境を保全するため, スポーツ施設等の開発を行わないようにして下さい.
2.現在の里山自然環境を維持し,様々な生態系復元措置を行って下さい.
【要望の理由】
①サシバの保護
 ・サシバは東南アジアなどから日本に春渡ってくるタカの仲間で,里山の生態系の代表といえる  渡り鳥です.サシバは当地で繁殖まで行っており,里山公園の名にふさわしい,サシバの保護が必要です.
 ・カエル,ヘビなどを捕り,繁殖を行っているのが確認されており,生態系の頂点の生き物です。 今年も一部が池などの工事として開発され,生息環境としてはぎりぎりの状況で,さらにスポーツ施設などができれば,当繁殖地は壊滅します.生態系の頂点の生き物を守るためには,環  境全体を改変しないことが重要です.
  ・当会の調査では,県内では激減し,今年度では当地を含め,県内では3箇所しかない貴重な  繁殖地であります.
 ・サシバは日中渡り鳥協定の指定種にもなっており,世界的な視野での保全が必要とされてい   ます.神奈川県内では,里山環境の減少により繁殖地は,激減しています.神奈川県のレッド  データブックに今後記載させる可能性が高いです.
②オオタカの保護
 ・オオタカも里山の頂点の生き物で,当地は餌場として通年活用されています.オオタカはトキ  などと同様,「種の保存法」指定種であります.
 ・近隣の藤沢市遠藤に繁殖地があり,採餌地としてそこから飛来してきている調査結果が出てい  ます.遠藤のオオタカは,「種の保存法」の「行政による保護施策の義務」に基づき,藤沢市とし  ても保護しているものであり,当公園においての採餌活動にも支障が出ないようにする法的義  務があります.
③茅ヶ崎市の環境基本計画の「コア地域」となっている
 ・茅ヶ崎市の環境基本計画では,重点施策として「里山の自然を保全する」項目があり,柳谷はコ  ア地域とされています.また,この中で,目標として「市民の手によって里山の自然の質を高  める」とあり,また,「里山の自然を保全するには現状の緑の量と広がりを確保し,さらに質の  向上を図る施策が必要」ともあり,この地域へのスポーツ施設の建設は,茅ヶ崎市の方針にも反  することとなります.
④スポーツ施設について
 ・項①,②のように,柳谷部分は,採餌,繁殖,越冬,など通年猛禽類の生息を支えています.  県内ではこのようなレベルの高い里山環境は大変貴重であり,未来に残すべき場所と強く感じ  ます.スポーツ施設は違う場所にも作れますが,この里山環境は一度壊したら再生が不可能で  す.                                 以上

●俣野遊水池の件
 横浜市戸塚区の境川沿いには,いくつかの遊水池が備えられる計画があるが,その南端にあたる俣野遊水池は,良好な水辺環境が形成され,タマシギなどの希少な水鳥の生息地として重要な存在となっている.その環境保全については,地元の境川遊水池自然観察会が中心となって,管理者である県土木事務所と話し合いを行っており,支部としても上玉利幹事が中心になって協力している.2001年5月に下記の要望書を提出し,回答を得た.なお,俣野遊水池は支部の定線調査の対象地の一つであり,調査で得られたデータがこれらの要望にいかされている.

資料4 藤沢土木事務所への要望
────────────────────────────────────────────
神奈川県藤沢土木事務所長殿       2001年5月20日
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
俣野遊水池における湿地性鳥類の生息環境保全について(要望)
 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.
 本会は野鳥の観察を通して自然に親しむことを目的とした市民団体で,県下に約4000名の会員を有しております.このたびは,貴事務所で担当されている俣野遊水池(横浜市戸塚区東俣野町)について,環境保全の観点からお願いしたいことがあり,文書をさしあげました.
 当地においては,遊水池造成のために耕作が放棄されてから,湿地性の環境が回復し,数多くの野鳥が渡来するようになりました.当会会員が1999年から2000年にかけて毎月1回の定期的な調査を行ったところ,50種類の鳥が記録され,その中にはクイナ・バン・オオヨシキリなど,近年生息環境の悪化のために減少の目立つ湿地性の種が含まれていました.バン・オオヨシキリは当地で繁殖しており,また2001年には「神奈川県レッドデータ生物調査報告書」において絶滅危惧種に位置づけられているタマシギが継続的に観察されています.なお,こうした観察結果については,必要であればご提供する用意があります.
 これらの野鳥が生息する環境は,特に横浜市内においては貴重なものですが,聞き及びますところでは,貴事務所のご計画においても,予定地内に水辺ビオトープの設置が予定されているようであり,その実現を願っております.
 さて,以上のような状況をふまえて,俣野遊水池で今後行われる工事について下記の点を要望いたします.よろしくご配慮ください.

1.近々,運動広場造成のために土砂の掘削工事が行われると聞いております.当地では,特に予定地東南にあたる湧水の存在するエリアが,将来的な水辺ビオトープにとって水およびタコノアシなどの湿地性植物の種子の供給源として重要性の高い部分だと考えます.今回予定されている工事において,特にこの部分の保全をはかって頂くことをお願いいたします.
2.俣野遊水池内に予定されている水辺ビオトープの設計および維持管理などに関して,本会など市民団体の意見を申し述べる機会を作って頂くようお願いいたします.特別な予算をかけなくても,ちょっとした工夫をすることによって,生物の多様性を回復し,住民にとっても親しみやすい場所とすることが可能だと考えております.
3.境川水系においては,俣野遊水池の上流側に下飯田遊水池,今田遊水池の造成が予定されていると聞いております.これら3遊水池を有機的につなげることによって,良好な湿地環境のネットワークを創出することができますし,その計画は運動広場などとの利用とも十分共存可能だと思われます.今後の計画立案について,本会など市民団体も協議の場に加えて頂くようお願いいたします.

資料5 藤沢土木事務所からの回答
────────────────────────────────────────────
 日本野鳥の会神奈川支部長様    平成13年5月31日
              神奈川県藤沢土木事務所長
俣野遊水池における湿地性鳥類の生息環境保全について(回答)
 日頃より,藤沢土木事務所の建設事業等にご理解,ご協力を賜りお礼申し上げます.
 さて,境川は,過去に藤沢市や横浜市など下流域において度々浸水被害があったことから,県では総合治水対策特定河川事業により当面時間雨量50mmの雨に対応できるよう整備を進めており,境川遊水池につきましてもその一環として建設を進めているところでございます.ご存じのとおり,遊水池は台風など大雨の時に一時的に河川流水を貯留し,下流域周辺の住民の皆様の財産,生命を洪水の被害から守るための治水施設であります.従いまして,常に遊水池内は河川流水の流入に対応できる状況でなければなりません.しかしながら,平常時は,遊水池内が広い面積を有していることから,地域の住民から多目的な運動広場や自然観察の場として有効活用したいとの要望も多くありまして,遊水池に広場ゾーンと自然ゾーンを設けて,平常時には市民の皆様に利用して頂こうと考えております.なお,将来,浸水被害等による河川の治水安全度をさらに高める場合には,遊水池の貯留量を拡大するために形状を変更することもあり得ることを申し添えます.
 ご要望の3点でございますが,1点目の俣野遊水池の一部区域の保全については,自然ゾーンを極力,現状のままにしておきますが,河川流水の貯留後はどうしても土砂が堆積してしまいますので,その排除は行います.2点目につきましては,後日,調整の上で意見交換の場を設けさせて頂きたいと考えております.3点目の3遊水池,特に下飯田,今田の2遊水池の具体的な整備にあたりましては,貴会をはじめ多くの市民の方々のご意見を聞きながら取り組んでまいりたいと考えております.