日本野鳥の会神奈川支部研究年報 BINOS 第24集



【論 文】

畠山義彦:ヤマガラの営巣時の行動について

要約:巣箱内に赤外線カメラを設置した巣箱観察システムを用いて、ヤマガラの営巣時における行動を観察した。営巣期間は巣作り開始の3月10日から巣立ちの5月11日まで53日間であった。巣材を巣箱に運び入れる前に親鳥♀が巣箱内の壁や床を嘴でつついたり、床の上で羽を広げ泳ぐように羽ばたいたりする行動がみられた。産卵時には毎朝早朝1個ずつ産卵するが、親鳥が巣箱に入る時間は空が白み始める時間であった。親鳥♀は産卵期には、1日1個の卵を体内で作らなければならず、そのための効率的な産卵時刻として早朝を選択したと考えられる。育雛時の雨天の日は、雛の成長が鈍りその影響が翌日まで及ぶことが確認された。これは雛の成長の条件として日中の採食が影響していると考えられる。雛の総排泄腔より排泄され、風船のように膨らんだ排泄物を親鳥が食べるか外へ運び出す様子が確認された。成鳥の排泄物は液体状に近いものであるが、雛の排泄物は親鳥が処理しやすいよう膜状の物質に被われており、排泄物が散乱しないような構造になっていると考えられる。


こまたん:喉周辺が赤くなっているアオバトの飛来について

要約: 神奈川県大磯町照ヶ崎海岸に飛来するアオバトを観察していると、稀に喉から胸にかけて赤い色の個体(以下喉赤アオバト)が観察されている。今回照ヶ崎への飛来調査記録から、喉赤アオバトの飛来状況及び採食している果実の状況確認を踏まえ、喉赤アオバトの発生理由について検討した。

1 2010年~2016年の照ヶ崎でのアオバト飛来調査において、総観察羽数168610に対して喉赤アオバトは177羽観察され、その出現率は0.10%だった。

2 2010年~2016年における喉赤アオバトの飛来は、主に6月~9月の間で特に6月、7月に集中し、9月に少数の飛来が再びある。8月は2012年(34羽)と2014年(2羽)を除き飛来はなかった。

3 2010年~2016年の観察時に、性別を識別できた147羽では、オスの比率:73.5% メスの比率:26.5%だった。

4 2010年~2016年の観察において、喉赤アオバトはすべて成鳥のアオバトで幼鳥の喉赤アオバトは一度も観察はされなかった。

5 2016年の観察回数は他の年の倍以上実施できたので、2016年の記録を用いて詳細な検討を行った。

 以下、2016年の記録についての検討結果を示す。
①観察総数42529に対して喉赤アオバトは24羽観察され、その出現率は0.06%だった。
②喉赤アオバトの飛来は、6月~9月の間で特に6月、7月に集中し、9月に少数の飛来が再びある。8月は観察されなかった。
③性別を識別できた20羽では、オスの比率:90% メスの比率:10%だった。
④観察総数42529羽のうちオスの比率:39%、メスの比率:61%だった。観察羽数全体のオスに対する喉赤アオバトのオスの出現率は0.11%、同様にメスの出現率は0.01%。オスがメスに対して11倍の出現率だった。
⑤喉赤アオバトの出現は大きく二つのグループに分かれていた。最初のグループ(第1回目)が6月19日~7月24日まで、2回目の出現が9月12日~9月26日まで。そして幼鳥第1期が飛来したのが7月18日からだった。幼鳥第1期の観察が集中する7月下旬~9月上旬の間は喉赤アオバト(明らかに喉が赤い個体)は観察されなかった。

6 2010年~2016年の7年間の観察データから、各年度の喉赤アオバトと幼鳥第1期の飛来は、まず喉赤アオバトが出現し、喉赤アオバト出現終了後に幼鳥第1期の飛来が増加していくことがわかった。

7 喉赤アオバトの発生理由について複数の候補案を検証し、果汁が赤い色の果実が食べられている時期、および幼鳥が巣立つ時期とに関連が認められた。このことから、照ヶ崎に飛来する喉赤アオバトの正体はアオバト幼鳥の巣立ち~自立するまでの間に親鳥が果実を吐き戻して幼鳥に与える際に潰れた果実の赤い果汁が親鳥の口からこぼれ落ち喉や胸に赤い果汁が付着したものと考えるのが最も妥当な発生理由であった。


大坂英樹:配偶様式の違いが現れたメジロとウグイスの夜明けの鳴き声頻度

要約:1)
 神奈川県大磯町丘陵にて2014年07月から2016年03月までの期間、メジロZosterops japonicusとウグイスHorornis diphoneの鳴き出し時間とそれに続く鳴き声の頻度を聞き取りにより求めた。また太陽高度と天気から両種の繁殖期と非繁殖期(冬期)の鳴き出し水平面照度を推定した。
・メジロの鳴き出し時間と照度(平均±SD):
  繁殖期( 4月?7月)(n=19):
   -18.3±4.4分、59.0±67.5 Lx
  冬 期(11月?1月)(n=22):
   -24.8±7.9分、21.7±25.7 Lx
・ウグイスの鳴き出し時間と照度:
  繁殖期( 3月?6月)(n=19):
   -15.5±4.0分、 96.6±86.4 Lx
  冬 期(11月?1月)(n=22):
   -12.36±10.37分、201±459 Lx
 メジロの鳴き出し照度はウグイスに比べ繁殖期も冬期も安定しており、概日時計制御の入力である照度依存が高いと思われる。

2)2015年の繁殖期の囀りは日の出時刻を基準に、ウグイスでは-18.3±4.4分に囀り出し、観察終了の日の出後90分まで早朝も囀り続けた。他方、メジロは-18.8±3.5分から+6.1±6.4分まで続けて囀ったが、それ以降の早朝は極端に回数が減った。囀りの長さは25.0±5.6分であった。

3)メジロとウグイスの早朝の囀りの違いの理由として配偶様式の差があると考えられる。社会的にも遺伝的にも一夫一妻制のメジロは番い関係が強く、番いで営巣、抱卵、育雛を行うメジロはオスがなわばり維持のための夜明けだけ囀り、早朝囀せず子育てに貢献していると考えられる。他方、一夫多妻制のウグイスはオスが交尾となわばりの維持以外は繁殖に参加せず、育雛支援の機能もあるもののなわばりの維持とメス求愛のための囀りをやめないと解釈できる。

4)ウグイスもメジロも繁殖初期の囀りは夜明けも早朝も断続的だがその意味は異なるかもしれない。その意味はメジロでは繁殖成功率に直結する営巣場所選定のためのなわばり確定と確保のため、ウグイスではなわばり確保を兼ねた囀りの練習のためかもしれない。この時期のメジロの囀りも短く、練習の可能性もある。

5)ウグイスは繁殖最盛期の5月17日に夜明け囀りも早朝囀りも乱れた。この日はホトトギスの渡来直後であり、托卵鳥の出現のせいかもしれない。


【観察記録】

望月藤子・加藤ゆき・守屋博文・宮地知之:神奈川県立境川遊水地公園で死体回収されたサンカノゴイ Botaurus stellaris の計測結果と消化管内容物について

三浦雅哉・秋山幸也:神奈川県におけるヤマヒバリPrunella montanellaの初記録

加藤ゆき・秋山幸也・重永明生:神奈川県相模原市におけるナベヅルの越冬記録

名尾良英・高橋 弘・濱 伸二郎・内藤千鶴子:藤沢市における越冬期のオオヨシキリの観察記録

大久保香苗:横浜自然観察の森におけるイイジマムシクイPhylloscopus ijimaeの観察記録

濱 伸二郎:藤沢市内で冬季に滞在したニシオジロビタキ


【調査記録】

奥津敏郎:横浜市野島のオオバンの増加記録

賴ウメ子:箱根樹木園における異なる調査時間による鳥相の変化


【支部活動】

2016年の神奈川支部行事

2016年の保護研究部の活動


【雑 録】

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