2001年の保護研究部の活動

         

 
2001年に,神奈川支部が関わった保護研究活動について,行政担当部局に提出した書類を資料として採録しながら,その経緯を紹介する.

●クマタカ飼育問題の対応

 
2000年11月上旬に広島の「クマタカ研究会」から磯子区でクマタカが飼育されているという情報を頂いた.以下の対応をメモとしてまとめる.
* 11月17日にトラフィックジャパンの石原氏へクマタカの輸出状況について聴取.台湾では,1989年から捕獲・輸出禁止.台湾はワシントン条約に加盟していないが,厳しい輸出規制をしているとのことだった.
* 山階鳥類研究所からクマタカの亜種の鑑定について聴取.日本産と異なる亜種が台湾や中国に分布するが,数は多くないとのこと.写真がとれれば,日本産亜種との違いは鑑定できるとのことだった.
* 密猟対策連盟から輸入証明書に期限切れでも証拠の押収など警察が動くことはできるなどの情報をもらう.しかし証明などは,すぐに偽造出来るのでなるべく秘密に鑑定を行い,日本産亜種であればすぐ警察が動き,個体を収監する事が必要とのこと.
* 野鳥の会自然保護センターから日本に輸入された,クマタカの輸入統計をもらう.
* 神奈川県緑政課と連絡を取り,行政レベルで環境庁,通産省と連絡をとってもらう.
* 2000年12月27日緑政課と石井で現地に行く.輸入証明書と写真をとることが目的.写真撮影は拒否される.石井が見た限りで,冠羽が非常に長いタイプのクマタカで別亜種と判断した.
* 現地でイヌワシの若鳥を見る.現場では,輸入証明は無いが,通関証明は浅田鳥獣店(世田谷区三軒茶屋)からもらっているので,後でFAXを送るとのこと.他にオオタカも飼育していることを,聴かせてもらう.
* 1月になり,イヌワシをロシアから輸入した証明書がFAXで緑政課に届く.
* 緑政課が環境庁に問い合わせた所,通関証明は本物である旨と連絡があった.
* 山階鳥類研究所からの情報ではイヌワシの場合,若鳥の鑑定は難しいが,色がはっきり出る写真があれば,鑑定出来るとのことであった.ロシアからは,輸入がされているので,日本の密猟個体である可能性は少ないとのこと.

まとめ
1.現在の輸入証明は法的根拠もない,業界団体の書類である.
2.通関証明が,個体と連動していない.輸入時に一括で証明書が発行されている.輸入された個体が死亡しても,別の個体をその時に輸入したと言われた場合,反証出来ない.
3.最終的には,日本産亜種かどうかの鑑定が必要になる.メジロはマニュアルが発行されているので,ある程度簡単に鑑定出来る.しかし他の種は,山階鳥類研究所などで鑑定が必要になる.

●開成町サギ山問題

開成町吉田島にあるサギコロニーについて,公園化計画が持ち上がっているという情報が神奈川新聞で取り上げられた.しかし,開成町としては町有化する関係上,サギコロニーと付近の住民との共存には否定的であった.神奈川支部では,サギコロニーと住民との共存のための公園化計画を日本大学の葉山嘉一氏の協力の下に,開成町町長に面会の上に提案した.町としては,以下の案も含めて今後具体的な計画の中で検討するという回答であった.しかし住宅地と近い場所であることから,実現は難しいという感触もあった.開成町内で,住民との軋轢のない場所での,コロニー確保は協力したいとの町長の意向表明もあった.
 2002年のコロニーの状況は,5月から繁殖の準備が始まったようだが,結果的にコロニーが移動してしまった.その原因については,ムクドリのねぐらが出来た,草刈りが行われた,花火等の脅かしがあったなどの情報があったが詳細は不明である.新しいコロニーは南足柄市岩原の八幡神社にできた.この場所は,大きな集落は無いが少数の住宅がサギコロニーに非常に近く,生活被害は甚大である.2003年度のコロニー形成に何らかの対策が必要になると思われる. 

資料1.開成町に提出した提案

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開成町 町長殿 2001.07.24
開成町サギ山公園計画についての提案       
          日本野鳥の会神奈川支部
 開成町吉田島のサギ類の集団繁殖地について,町有地化をはかって頂いたご英断については会員一同感謝しております.
 ここに営巣しているサギ類が,町の方々からも愛されながら永続的に繁殖を続けることができるよう,そのための提案をまとめてみましたので,よろしくご検討ください.

1.公園計画について
* サギコロニーを水路で分断して,人の立ち入りを出来なくしたい.
(水路は池状にしてビオトープの造成も視野に入れる.)
* コロニー内の園路はサギ営巣に大きな影響があるので作らない.
* サギ観察用の展望台を作る.
* アイデアとして,柵を作りその中に活性炭を入れて消臭効果を期待する.
その柵に緑化対策をして見栄えを良くする.
匂いの出る植物の植栽の実験する.
* 公園に連動して,県道の街路樹を植える(現在は背が低いイチョウがまばら)
2段植えにして防音・羽の飛散防止などのため効果を期待する.
2.サギの被害関係
* 北側の集落で5戸前後はサギ関係の被害は大きいが少し奥に入ると,被害はそれほどでないと  いう住民の方がいた.
* 飛行経路のフンに対する対策 アドバルーンなど飛行を妨害するような措置を取ってみる.馴  化に対する方策も考慮に入れる.
3.ソフト面
* 野鳥の会神奈川支部西湘グループで観察会の開催
* 学校(開成町内全体で小学校1校・中学校1校)のカリキュラム内にサギの観察を入れるよう   に働きかける.
* 自治会を通じて,夕方ねぐらへ帰るサギの方向などを調査してもらう.行動圏の把握.

サギコロニー保全のイメージ (図面作成:葉山嘉一氏)



●鳥獣保護法関係


1.地方分権に伴う捕獲数の変化
 鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律について地方分権をもりこんだ改正が行われ,一部鳥獣の捕獲権限が神奈川県から市町村へ委譲された.地方分権初年度の2000年度の捕獲状況を神奈川県緑政課から入手し,1998年のデータと比較を行った(資料2).2000年になって捕獲数の大きな変化は見られず,現状としては捕獲権限委譲に伴う捕獲数の大きな変化は見られていない.
 なお,2002年現在,捕獲権限の委譲を受けていない市町村は,横浜市と三浦市のみである.


2.第9次鳥獣保護事業計画策定に関する意見書
  第9次鳥獣保護事業計画策定に関して,神奈川県緑政課から意見の提出を求めら,以下のような内容の意見を5月に提出した.また,第9次鳥獣保護事業計画についてのパブリックコメントを11月に提出した.


資料3.神奈川県からの照会に対する回答
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2001年5月10日 
神奈川県環境農政部長様 日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
第9次鳥獣保護事業計画策定に関する意見(回答)
平成12年4月10日付けで照会を頂いた「第9次鳥獣保護事業計画策定に係る意見」について回答いたします.
1.自然環境保全センターの傷病鳥獣保護事業は,調査研究,保護管理の支援のための業務として具体的な体制整備を行って下さい.
2.休猟区については第8次鳥獣保護事業計画で未実施でしたので復活して下さい.
3.鳥獣保護区として,以下の場所の指定をお願いします.
開成町で設置予定公園(開成町吉田島)
宮ヶ瀬湖全域
丹沢大山国定公園内を全域(猟区以外)
県の天然記念物(自然関係)に指定されている場所
4.鳥獣保護区特別地区として以下の場所を指定して下さい.
丹沢大山国定公園内の800m以上の標高全域
5.キジ・ヤマドリの放鳥は環境庁の基準にあるように,地域個体群の維持,絶滅のおそれのある保護増殖にあたらないので全面的に行わないようにして下さい.
6.地方分権された有害鳥獣駆除の実績については,4半期ごとに報告される事になっていますが,神奈川県のホームページ等などで情報が早い段階で公開されるようにお願いします.
7.メジロ・ホオジロの愛玩飼養は環境庁段階では認められていますが,各県の判断で飼養を全面禁止にする県も出ています.神奈川県も密猟等の原因の1つになっている愛玩飼養を全面的に禁止するようにお願いします.
8.もし愛玩飼養を認める場合には,許可件数を市町村ごとに許可件数を鳥獣保護事業計画書の中に明記して下さい.
9.予察駆除を行う基準である予察表の策定は,環境庁の基準にあるように学識経験者の意見を聴取した上,調査検討の上で予察表を策定する事をお願いします.また必ず捕獲数の上限を設けて下さい
. 以上

資料4.第9次神奈川県鳥獣保護事業計画についてのパブリックコメント
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2001年11月2日
神奈川県知事 岡崎洋殿 日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
第9次神奈川県鳥獣保護事業計画について(要望)
前略 表記の要望をお送りします.よろしくお願いします.
第3 鳥獣の人工増殖及び放鳥獣に関する事項
 放鳥は,放鳥後の追跡調査の内容を公開しその内容を鳥獣保護の専門部会で検討して下さい.
第4 有害鳥獣の駆除に関する事項
(1)方針
ア)許可の考え方
 ○予察表について/被害発生予察表は,今回の法改正の科学的な管理の重点になっています.被害発生予察表の策定基準を公開し鳥獣保護の専門部会で検討してください.
イ)許可権限の市町村への移譲
 許可権限はあくまでも神奈川県にあり,その権限を移譲しているので市町村の捕獲状況を県としては,4半期毎に把握し公開して下さい.その際,統計的に有意な捕獲数の変化がある場合は,状況を県として責任を持って調査することを行ってください.また鳥獣保護の専門部会で,捕獲数の推移を科学的に検討する事を行ってください.
3-(2)関係者間の連携強化
 地域対策協議会の参加メンバーを公表して下さい.その中に必ず自然保護関係のメンバーを入れて下さい.環境省の鳥獣保護事業計画の策定の議論にも,その事が検討事項として取り上げられ,「市町村・農業協同組合・森林組合等」の形でその件で基準に入っています.
第6 特定鳥獣保護管理計画の樹立に関する事項
1.対象鳥獣は,個体数の著しい増加又は分布域の拡大の鳥獣としていますが,環境省の基準では,著しいく減少した鳥獣も対象としています.神奈川県においても保護を必要とする鳥獣を入れてください.
2.対象鳥獣は,保護すべき鳥獣としてコアジサシを対象としてお願いします.コアジサシは,人為的な河川環境・海岸線の変化により繁殖地が著しく減少しています.計画的な保護対策を緊急に作成する必要があると考えます.
参考意見
特定鳥獣保護管理計画については,カワウ・コアジサシのガイドラインを環境省に作成するように働きかけてください.また,第10次の鳥獣保護事業計画に向けて上記種について非公式の検討会を設けてください.                             以上

●カワウ問題について
 近年のカワウと内水面漁業との軋轢については,支部として調査活動や県との交渉を通じて取り組んできたことであるが,2001年から2002年にかけて大きな動きがあった.一つは,2001年10月28日に神奈川支部が神奈川県内水面漁業協同組合連合会と共催して「神奈川カワウワークショップ」を開催したことである.この席で初めて野鳥の会や研究者,行政担当者と内水面漁業関係者が一同に会して議論をたたかわせることができた.その会合での発言については別項にとりまとめた(本誌p.133~162).
 しかし,その後も漁業組合側から強い働きかけがあり,2002年度に相模川でカワウの有害鳥獣駆除が実施されることとなった.その決定に先立って神奈川県水産課・水産試験場・緑政課・神奈川県内水面漁協振興会・(財)日本野鳥の会・日本野鳥の会神奈川支部が会議を持ってカワウ対策の話し合いを行った.(財)日本野鳥の会と神奈川支部では,駆除に絶対反対の立場は取らなかった.しかし駆除を行う以上,科学的な駆除効果の測定を行い,その上で今後の対策の方向性を考えることを提案した.その結果,下記の合意事項が策定され,また(財)日本野鳥の会研究センターが効果測定の調査を行った(その結果は未発表).


資料5.カワウの有害駆除についての合意文書
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●2001年3月27日会議参加者
(財)神奈川県内水面漁業振興会,(財)日本野鳥の会,日本野鳥の会神奈川支部,神奈川県環境農政部水産課,神奈川県水産総合研究所内水面試験場及び神奈川県環境農政部緑政課
1.駆除の目的
 カワウの有害鳥獣駆除を行うことにより,カワウによる内水面漁業への被害の防止を図る.なお,この駆除は,採食場において駆除を行うことにより,カワウを威嚇し追い払うものとする.コロニー・ねぐらにおける駆除は行わない.
2.駆除期間
 平成14年4月中旬から5月中旬まで.ただし,ゴールデンウィークとバードウィークは除く.(バードウィークを除くかどうかは検討します.)
3.駆除数
(1)駆除許可数 
 駆除の許可は,神奈川県環境農政部緑政課が,(財)神奈川県内水面漁業振興会の申請に基づき行う.なお,駆除許可数は,150羽を上限とする.
(2)各河川ごとの駆除数
 (財)神奈川県内水面漁業振興会は,駆除許可数の範囲内で,各河川ごとの駆除数を決定する.
4.駆除実施主体
 駆除は,(財)神奈川県内水面漁業振興会が実施する.
5.駆除実施区域
(1)河川
 相模川及び酒匂川(コロニー・ねぐらを除く)
(2)湖沼
 津久井湖及び相模湖(コロニー・ねぐらを除く)
6.計画の進行状況の把握
 今次の計画の進行状況は,緑政課が把握する.各団体は,実施計画および計画遂行後を緑政課に通知する.緑政課は各団体へ,すみやかに内容を送付する.
7.駆除の効果測定
 水産課,(財)日本野鳥の会,日本野鳥の会神奈川支部及び内水面試験場は協力して,駆除の効果測定を行う.(財)日本野鳥の会と日本野鳥の会神奈川支部は,放流期間前後,駆除期間前後及びアユ漁解禁直後のカワウの飛来状況を調査する.内水面試験場は,捕獲個体の調査を行う.
 なお,(財)日本野鳥の会は,当該調査を実施する場合には,事前に調査日時,調査地点を事務局の緑政課に通知する.(財)神奈川県内水面漁業振興会は,(財)日本野鳥の会が当該調査を実施する日の午前8時までは,カワウの追い払いは行わないこととする.
8.アユの放流実施の通知
 (財)神奈川県内水面漁業振興会は,アユを放流した場合には,放流日時,放流地点,放流数を事務局の緑政課に通知する.
9.捕獲個体の調査
 駆除したカワウは,(財)神奈川県内水面漁業振興会が回収し,神奈川県水産総合研究所内水面試験場において胃の内容物を調査し,(財)日本野鳥の会は,必要と認められる調査を実施する.
10.捕獲数の報告
 (財)神奈川県内水面漁業振興会は,駆除期間満了後すみやかに鳥獣捕獲許可証,従事者証及び腕章を神奈川県環境農政部緑政課に返納するとともに,駆除実施区域ごとの捕獲数を事務局の緑政課に通知する.
11.今後について
 効果測定の結果は,科学的な方法で適切に評価し,上記関係者等による報告会を開いて共有し,以後の被害対策の策定に役立てる.芦ノ湖における被害対策及び秋季における被害対策については別途協議する.また,カワウの生息状況に変化が生じ,新たな問題が発生した場合は,すみやかに対応を検討する.

●川崎市,横浜市港北区および県緑政課から依頼された調査
 川崎市から,2000年から2001年にかけての越冬期および2001年の繁殖期に,市内のカラスの生態調査について依頼を受けた.川崎市在住の約50名の会員の参加を得て,川崎市周辺の5ヶ所の集団ねぐらの集合個体数,長さ1kmの50ルートについてのゴミ集積場でのゴミ荒らしの実態調査を行った.また越冬期には,市域の70%にあたる地域のカラスの全数調査を実施した.繁殖期には,500m四方を単位として47ヶ所で営巣数の調査を行った.これら2期の調査については,川崎市から調査報告書が刊行された.また,調査結果をふまえて2002年度にカラス問題の理解を求めるパンフレットが刊行された.
 調査の結果としては,川崎市に越冬期に生息する個体数は約6000羽,繁殖つがい数は1500つがい程度で,ハシブトガラスが9割を占めると推定された.また,特に繁華街でゴミ荒らしが発生しており,ネットなどの対策がとられている場合には,被害が少ないことが分かった.
 横浜市港北区からは,2001年の繁殖期に,大倉山公園などの3ヶ所の緑地でのカラスの繁殖状況についての調査が依頼され,4名の会員の協力を得て調査を実施した.15個の巣が発見されたが,確実に巣立ったことが確認されたのは3ヶ所に過ぎず,緑地公園にカラスが集中的に繁殖しているという状況は認められなかった.公園内のゴミがカラスの餌となっているという状況もなかった.また,別の公園でカラスの餌付けによって多数のハシブトガラスが集まっていたので,その状況についても報告を行った.
 県緑政課からは,2000~2001年の越冬期と,2001年の繁殖期に,オオタカの分布,カラスの集団ねぐらの個体数,ドバト・ヒヨドリなど農業被害が問題となっている種の個体数などについての調査の依頼があった.この調査については,(財)日本野鳥の会研究センターで受託し,支部がその実施に協力する形で行った.猛禽類の調査については,川手隆生氏(神奈川野生生物研究会所属)に計画,現地調査の指揮,まとめの全体にわたって中心になって頂いた.これらの調査については,県緑政課に対して報告書として提出した.