BINOS vol.17(2010)





◆戸井田伸一・石田スーザン:相模川中流域に飛来するカワウについて
 【要約】
 相模原沈殿池で休むカワウの数を定期的に数え飛来数を把握した。
 カワウの数は11月と12月に多かったが、この時期は行徳鳥獣保護区における観察個体数が減少する時期と一致しており、東京内湾のねぐらからカワウが移動してきたと推定される。
 カワウの数が増える要因の一つは、アユが産卵場付近に高密度に集まることが考えられる。
 また、海域におけるカワウの主要捕食魚であるカタクチイワシが東京内湾で減少することも関係していることが示唆されたので、より詳しい解析が必要である。
 カワウ対策は、地域全体で取り組む課題と併せて地域ごとに漁場の特性に合った漁業被害軽減対策を実施する必要がある。

◆田淵俊人:神奈川県相模原市緑区内郷地区(旧相模湖町)の野鳥(2000年~2010年)
  【要約】
 2000年6月から2010年6月までの10年間に渡り、神奈川県相模原市緑区寸沢嵐の内郷地区(旧、津久井郡相模湖町)に出現した鳥類についてラインセンサス法を用いて総合計231回の調査を行い、観察された種、個体数、繁殖の有無について、1999年のデータと比較検討を行った。結果は以下のように要約される。
1 2000年6月から2010年6月までに85種の鳥類を確認した。この結果、1999年から2010年までに合計108種が観察されたことになった。
2 調査地区において観察種数が多かった季節は、1月から5月までの冬から初夏にかけての50種で6月から9月までの夏から初秋では30種であった。
3 各月における個体数がもっとも多かったのは、11月から翌年4月の冬季から春の間で、1回の調査で平均140羽~170羽が記録された。この結果は1999年から2000年までの結果と比較すると、極めて少なかった。これは、個体数が多いオシドリやイワツバメの個体数が激減したことと関係があるものと推察された。
4 調査地域において繁殖を確認した、あるいは可能性のある鳥類は52種であった。この数は調査期間中に観察された鳥類85種の60%を占めた。また、1999年6月から2000年6月までの結果と比較して5種増加した。
5 10年前に確認されたが、本報告の2010年までの10年間に1回も確認されなかった種は20種、前回の報告では確認されなかったが、この10年間で新たに確認されたものは8種であった。これらは一時的に立ち寄るものがほとんどである。
6 本調査結果で、以前は普通に確認されたが、この数年間で全く確認されなくなった種はヤマセミで、2006年以降には記録がなかった。減少傾向の著しいのはオシドリ、イワツバメで、増加傾向にあるのは、マガモ、カルガモ、オオバンであった。
7 今後は同地域のラインセンサスを継続するとともに、同地域に特徴的であったオシドリ、カワウ、イワツバメ、タカ類、ヤマセミ、カラスのねぐら入りや帰化鳥のガビチョウについてその動向を重点的に調べる必要があると考えられた。

◆石井隆・葉山久世・加藤ゆき・東野晃典・菊池博・松本令以:丹沢湖の外来亜種カナダガン学術捕獲とその問題点
  【要約】
1 神奈川県足柄上郡山北町丹沢湖には、環境省が要注意外来種に指定しているシジュウカラガン大型亜種(本稿の表記ではカナダガン)が2009年9月現在、11羽生息していた。
2 今回、神奈川県に対しカナダガンの学術捕獲を申請し2010年2月に11羽のうち7羽を捕獲し動物園に搬送した。また2羽を捕獲してカラーリングを付けて放鳥し、行動圏調査を行っている。
3 学術捕獲をする上で、鳥獣保護法、河川法の許認可手続きを記述した。
4 学術捕獲を行うにあたり、計画の周知を、山北町、丹沢湖ビジターセンター等に行った。
5 手取り捕獲の概要を記した。
6 要注意外来生物を生態系から排除するためには、外来生物法では対処出来ない。鳥獣保護法では、要注意外来生物は保護するべき鳥獣と同じで捕獲許可の適応が難しい。
7 動物福祉に関して、外来生物を予防原則で捕獲する場合の問題点を記述した。
8 今後の広域的なカナダガン対策について、DNA解析や行動圏調査の方向性を記した。

◆湯川廣司:多摩川河口におけるカモメおよびオオセグロカモメのヘッド・トッシングの観察―それぞれの機能と機能転換の可能性について―
◆宮脇佳郎・柴田久元・須藤伸三:三浦市で観察されたチョウゲンボウの基亜種Falco tinnunculus tinnunculusの検討
◆新倉三佐雄:1シーズンに同じ巣で3回繁殖したハクセキレイの観察記録
◆田淵俊人:神奈川県相模原市相模湖駅構内に営巣したイソヒヨドリ
◆石井一与:等々力緑地におけるサギのコロニーの観察記録
◆小松 洋:横浜市住宅街におけるツミの繁殖観察記録(第2報)
◆谷脇美雪・酒井明子・青木雄司:丹沢山塊で確認したコテングコウモリ
◆藤井 幹:日中に飛翔するヤマコウモリの報告
◆高橋 恵:秦野市立図書館におけるバードストライクの実態調査
◆葉山久世・金子裕明:相模川釣り針・釣り糸調査~駆除カワウが教えてくれた河川環境~
◆丸岡禮治・藤井 幹:厚木市七沢における鳥類標識調査の記録
◆二子山鳥類調査チーム:オオルリの囀り頻度の季節変化と繁殖スケジュールとの関係

 追悼 浜口哲一さんの足跡
 2009年の神奈川支部行事
 2009年の保護研究部の活動

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 執筆者紹介
 後記
編集委員:秋山幸也・青木雄司・東 陽一・藤井 幹・藤田 薫・畠山義彦・浜口哲一・
石井 隆 英訳・英文校閲:石田スーザン
表紙イラスト:カナダガン(作画・デザイン 秋山幸也)